“Bamboo Groove”

裂かれ、編まれ、集合する。絶え間ない循環。空気の可視化。流動する体。

Mame Kurogouchi の2023年春夏コレクションは、古代から現代に至るまで日本人の暮らしと密接な関わりを持ち続けた竹籠とその周 辺の文化をリサーチし、竹籠の造形、数多生み出された編みの技術、そして竹そのものが持つ静謐さと、力と緊張の均衡からインスパイアされたコレクションを展開します。
竹という単一の素材から生み出され、実用性と装飾性、素材特有の性質を
織り込ませながら 発展してきた竹籠。
籠そのものが持つ美しさ、緻密な編みとその中に仕掛けられた「間」に魅せられた黒河内真衣子は、次第に竹籠と花の調和の取れた関係性の中に、ドレスと人間の共犯関係を見出し、強さとしなやかさという正反対の性質が矛盾なく共存する女性像をコレクションを通じて編み上げてゆきます。

様々な作品や作家と出会う中で、20世紀初頭に活躍した作家の飯塚琅玕斎により創造された花籠に黒河内は強烈な共感を覚えます。

伝統的な唐物籠という安寧を超越し、⺠衆の暮らしと共に発展した⺠具を
高度な技術で再解釈し、芸術的主題へと昇華させた作品の 数々は、本コレクションにおいて最も多くのアイデアを発芽させる種となります。

琅玕斎が得意とした「束編み」を彷彿とさせるテクニックは、ニットピースにおいて多用され、緻密な編みと大胆な透かしによるリズムとグルーヴがコレクション全体の通奏低音として鳴り響きます。

軽やかなシルクの楊柳ジャカードのピースやシルクオーガンジーのトップスは、織りや刺繍で表現された竹林柄と上品な透け感のファブリックにより、
竹そのものが持つ凛とした美しさを体現し、竹林を揺らす風を纏うかのようです。大分で戦前に生み出された竹ビーズも、本コレクションのために再び生産・グラデーション染色され、特殊なマクラメ編みのドレスやベスト、スカートとして登場します。

ブランドの最もアイコニックな表現として過去にも登場したコード刺繍は、
まるで竹籠そのものを思わせる構築的なシルエットと極細のコードにより、
これまでで最も精巧な表現へと辿り着きます。

様々な素材の生地を裂織し、丸みを帯びた立体的な表現で生み出されたジャケットには、黒河内自身が手捻りによる成形を行い、佐賀県有田町で作陶する小物成窯と共に制作された特別なトグルボタンが付属します。

このようなディテールへの傾倒は、
コレクションのあらゆるピースに見受けられます。
ポケット口やベルトループに施されたパイピングのフィニッシュは籠の縁を
想起させ、最もクラシックな籠編み表現である六つ目編みは実際の編み表現を超え、ムラ染めされた糸をジャカードしたシルクコットンの生地上で糸が作り出す柄としても引用されます。

カラーパレットは竹林を思わせるミントグリーンに始まり、囲炉裏の煙に炙られ、変色した煤竹の持つ自然なブラウンのグラデー ションや竹の節の再現は、多色染めや筒状の生地に糸を巻き付けて行う⻯巻絞りといった伝統的な
有松絞りの技法で丁寧に表現され、多様でありながらあくまでナチュラルなトーンが揃います。

無染色のオーガニック茶綿をベースにしたドビー織の生地は、素材そのものが持つ大地のトーンとキュプラによる光沢が混ざり合うことで、現代的な美しさを纏い、着物の合わせを思わせるベストやスーパーワイドなタックドトラウザーズで登場します。

アクセサリーは真竹を燻し、束編みの技法で作られたネックレスやピアス、
イヤーカフの他、竹ビーズを使用しマクラメ編みされたコードが付属する
KIJIMA TAKAYUKIとのコラボレーションハットなど、直接的、または間接的に竹籠の表現が用いられます。シューズも豊富なバリエーションで登場します。

卵型ヒールのコード刺繍パンプスや飾り編みのようなディテールが印象的な
サンダルに加え、履物関づかとコラボレーションにより新たにデザインされた草履もラインナップされます。
伝統技法で手作りされる鼻緒と、スニーカーを思わせるライトなソールの組み合わせがコレクションのもつタイムレスな力強さと現代性を代弁します。